Reverend Nat’s Hard Cider(前編)

ポートランド、ローズクオーター。ストリートカーで、NE Broadway & 2ndから2ブロックにある醸造所。
世界中から集めた食材やスパイスを自在に組み合わせ、「誰も飲んだことのないサイダー」を目指すナット。
2016年7月上旬の初来日の際にインタビューの機会をいただき、サイダーをつくり始めたきっかけやアイデアの源などをいろいろと聞いてみました。日本で展開中のサイダーの醸造法やレシピ解説もあり。前・後編でどうぞ。

Reverend Nat’s Hard Cider
レヴェレンド・ナッツ・ハード・サイダー

Nat West
ナット・ウェスト
The Reverend

さえない顔をしていたプログラマー時代

ナットがサイダーをつくり始めたのは、12年ほど前のこと。
近所の友人宅の裏庭には大きなりんごの木があって、そのりんごを使っていろんな料理をしていました。
アップルパイやアップルソース、ドライアップル、アップルバターなどをつくっても、まだまだりんごが余っている。
「じゃあ、サイダーでもつくってみるか」と軽いノリで、それまで飲んだこともなかったサイダーづくりを始めました。

――最初は趣味として始めたんですね。

そうですね。
私はもともと料理が好きだったし、ビールも大好きだったけれど、醸造法や知識は全然なくて、ほとんどゼロからのスタートだった。
でも、最初の年につくったサイダーが思っていた以上においしくて、すっかりサイダーに夢中になってしまいました。

――当時はどんなお仕事を?

13年間、プログラミングの会社を経営していました。もともと自宅で仕事がしたいタイプの人間なんですね。
妻は看護師なので外で働いていて、私が仕事と家事を半々にする感じで。
とはいえ、近所のママ友たちの輪に入るのが嫌で、時間があるときには娘を連れて、友人の庭にりんごの収穫に行ったりしていました。
妻は、私がプログラマー時代はさえない顔をしていたというから、それほど仕事が好きじゃなかったのかもしれない(笑)

――サイダーをビジネスにしたのはいつから?

サイダーをつくり始めた最初の年は、たった5ガロン(1ガロン=3.8ℓ)。
それが年々増えていき、どんどんおいしいサイダーがつくれるようになっていくのが楽しかったんです。
そのうち、近所の人や友人たちの間でも評判になってきたので、思い切ってプログラミングの会社を売却し、4年前に本格的にサイダリーを始めました。
最初は自宅の地下室で醸造をしていましたが、すぐに手狭になり、2013年春にはポートランド北東部ローズクオーターにある200坪ほどの倉庫に場所を移しました。

――今はどのくらいの規模ですか?

2千ガロンからスタートして、翌年には2万ガロンと10倍に。今では年間30万ガロン(114万ℓ)のサイダーを出荷しています。フルタイムの従業員は16人います。

ナット流のサイダーづくりの原点

2010年頃からアメリカで起こったクラフトビール革命も、ナットに大きな影響を与えます。
ビール酵母や天然酵母、ベルギービールのスパイス感や、香りのよい西海岸のホップ、そして地元産フルーツジュース。
これらを組み合わせた多様なフレーバーに夢中になり、行く先々で出会う料理やお酒、マーケットから、新しい素材についても探求するうちに「りんごだけのサイダーではなく、クラフトビールやカクテルのようにいろんなフレーバーが楽しめるサイダーをつくろう」という答えにたどり着きます。

――フレーバーに注目したのはなぜ?

私自身ビールが大好きなので、醸造方法もクラフトビールからヒントを得ています。
材料をまぜて発酵させるだけ、というのがあまり好きじゃないんです。
例えば、ワインづくりをかなりおおざっぱに言うと、ぶどうをつぶして「はい、じゃあまたね」で、何年後かに再会する感じに近いですよね。
この発想でりんごのお酒をつくると「シードル」の方向性になるんですが、私が目指すサイダーは、よりビールやカクテルに近い。
もっと言うと、料理に近いプロセスを経て、自分が思い描く製品に近づけるような方法なんです。

よくおいしいワインを「神様の手によってつくられた」と表現しますね。
でも、私のサイダーはシェフが料理をつくるみたいに、おいしいと思う素材を集めて、混ぜてつくる。
3人のシェフがいたら、同じ素材を使ってもそれぞれ味わいが違ってきますよね。そういうおもしろさを大切にしたいんです。

――今、何種類くらいのサイダーをつくっていますか?

日本に出荷しているものは、定番が「リバイバル」、「ホプリコット」、「ニュータウンピピン」などだいたい5種類ほど。
季節限定が、春の「ニュームーンマンダリン」、夏の「テパーチェ」、冬の「ウィンター アヴィ スパイス」など、トータル6種類ほどですね。
ポートランドでは、年間でだいたい50種類以上展開しています。

――レシピや醸造法はオリジナル?

自分で考えることが多いですが、隣に住む友人からヒントをもらうこともあります。「ベルジャン酵母を使ってみたら?」とか。
「ホプリコット」や「テパーチェ」も、その友人からアドバイスを受けてつくってみたものですね。
彼は、私のサイダーづくりにおいて、とても影響を受けている先生でもあり、指導者的な存在でもあるんです。
普段彼は建設会社で働いていますが、サイダーづくりにとっても詳しいんです。
彼は自分の才能を活かしていないですね(笑)。
Reverend Nat’s Hard Ciderではプロフェッサーという肩書きになってもらっています。

ジュースまで絞った状態で品質をコントロール

――原材料のりんごは、どうやって仕入れている?

りんごの生産者とのつきあいはありますが、私がやりとりするのは、ジュースを専門とするジュースメーカーです。
りんごの酸味や糖度などから判断して「このりんごとこのりんごを絞ってください」とオーダーするんです。
彼らの方でも、酸度や糖度をチェックしてブレンドを変えたりもします。

――日本ではジュースメーカーってあまり見かけません。

オレゴンやワシントンにはたくさんのりんご農家がいて、良質で低価格のりんごが大量に獲れますからね。
りんご以外のフルーツ、ベリーやチェリー、洋なしなどのジュースメーカーもあります。
私は数種類のりんごをブレンドしてサイダーをつくることが多いので、ジュースメーカーの役割は大切です。
個々のりんごからスタートすると、味に差が出てしまいますからね。
あと、りんごの収穫は年に1度ですが、サイダーは年間を通じてつくりますよね。
その場合の保管方法は2つあって、1つは大きい冷蔵庫で新鮮なりんごをできるだけ長く保存すること。
もう1つは、ジュースまで絞った状態で冷凍しておくことで、私はジュースを冷凍しておくことが多いですが、品質は何も問題もありません。

――その他の副原料は?

ご存じの通り、オレゴン、ワシントン州はギャラクシー、モザイクなど、優秀なポップの一大生産地です。
私自身がホップ農家と直接契約することもあります。
「パッション」というサイダーで使っているフルーツは、直接エクアドルの生産者の輸出業者に連絡して買ったりしています。
「ホプリコット」に入れるアプリコットは、りんごと同じジュースメーカーに頼んでいますね。

魚を使ったサイダーはくさくて飲めなかった(笑)

――日本に輸出するきっかけは何だったんですか?

日本に進出できたのは、オレゴン州のお酒を日本語で紹介するサイト「オ州酒ブログ」を運営しているレッド・ギレンさん(本サイトにも寄稿予定)に、(有)ファーマーズの青木さんを紹介してもらってからですね。
2年ほど前です。私のサイダーはアメリカ国内でもまだ一部ですし、海外ではカナダと日本に少しだけで、実はほとんど輸出をしていないんです。

――日本でナットのサイダーが飲めるって、とてもラッキーなことですね。

私が4年前にこのビジネスをはじめたころは、自分のサイダーがここまで人気が出て、需要に追いつかなくなる日が来るなんて思いもしなかったです。
初めて来た日本でこんなにたくさんの人に歓迎してもらい、インタビューまで受けているなんて信じられない!(笑)。
私はすごくいいチームに恵まれて、サイダーが大好きな人と働けて、とてもラッキーだと思っています。

――いま、Far East Cider Associationでは、日本でサイダーをつくる試みを始めていますが、ナットからアドバイスを。

やはり、自分が納得のいくサイダーをつくることが一番です。
納得のいくサイダーにたどり着くためには、トライ&エラーを繰り返すこと。
私の頭の中はいつもサイダーのことでいっぱいで、日常生活で思いついたアイデアはメモをして、実際につくってみます。
年間でトライするのは80~90種類で、そのうち商品として選ぶのが50種類くらい。
以前、魚を使ったサイダーをつくってみたけど、それはさすがにくさくて飲めなかった(笑)。
でもそういう突飛なアイデアも、とにかく試してみることが大切です。

本国でも品薄状態というナットのサイダーですが、日本では成城石井でも購入できます。
また、輸入元のファーマーズ直営店「ビアセラーサッポロ」ほか、Far Eastが主宰する「Sip & Learn Hard Cider」のイベントでも飲むことができます。
日本酒の酵母や日本の食材にとても興味を示しているナット。
今回の来日をきっかけに、日本でもおなじみのりんご7品種を使ったサイダーを企画中とか。
その名も″The Magnificent Seven″「 7人の侍」。リリースが楽しみです!(後編につづく)

Reverend Nat’s Hard Cider
1813 NE 2nd Ave, Portland, OR 97212

問い合わせ:有限会社ファーマーズ

Interview at KAMIKATZ TAPROOM

カテゴリー : STORY

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